2006年12月27日水曜日

Vol.83「2006年"謝"」の巻


 ブォッブォッブォっと深いエンジン音を轟かせて、ランボルギーニカウンタックが表参道の狭い道路で渋滞中。街行く人々の視線を集めるものの、なかなか進めない。黄色がやたら眩しいランボルギーニ。この渋滞をぬけたとしても、この街に、この国にランボルギーニカウンタックの似合う道路なんてあるんだろうか。
 2006年を振り返り、一番最初に浮かんだ光景。ランボルギーニといえば、僕が最初に魅かれたマシーンじゃなかろうか。子供の頃その形をした消しゴムを持ってたことをおもいだす。できれば大地と大空に囲まれて、飛ぶように走っていてほしいカウンタックだ。
 
 振り返り、他にはないかと思い出せばテレビドラマの撮影現場も思い出す。
 テレビドラマの撮影現場には大勢のスタッフがいて、それぞれの役割を果たしながら一つのシーンを撮っていく。せっかくみなみなさまのお茶の間に登場するからには、中尾諭介ここにありと、いやらしくも何かしでかせたらと思いながら、その流れの中で、決められた台詞を吐くのがやっとこさで、表参道のカウンタックだった。 
 そんな現場で出会いがあった。待ち時間に喫煙所でタバコを吸って、どうしたら面白いことができるんだろかと考えていると、農作業の衣装のおじさんが一人話しかけてきた。「君はどこの役者なんだい」「僕はバンドマンです」「ほーっ私も昔やっていたよ、バンド」「へー何やってたんすか」「ジャズをね」「へー難しそうっすね、楽器はなにやってたんすか」「コントラバス」「へー」とかいいながら、コントラバスってなんだっけ、吹くやつだっけかなぁとか頭のなかで考えている間も、おじさんは楽しそうに話し続け、“あぁこの感じってギターかついでタクシーに乗って、ゆっくり考え事したい時に運転手さんから聞かされる昔話の類だなぁ”と思いながらも会話を続けた。「へーじゃあ、ジャズ喫茶とか米軍基地とかでやったりしたんすか」「うん、やったね」「へー音楽で飯食ってたんすね」「うん、まぁちょっとね」「へー」なんつって、いよいよやってくる出番に少々てんぱりつつ、ぼんやりながめる形で話を聞いていたところ、なにやら先ほどより気になるそのおじさんのキーワード「で、その時にうちの谷がさー」“谷? メンバーの名前を言われても知らねっツーの”と思いつつ、やたらでてくる谷さんをスルーして、鈍感な僕は話を聞いた。しかし次の名前で「そしたらうちの植木が」…… “植木? 谷? 谷、植木? ジャズ?”もしかして、もしかするともしかして、僕はおじさんの話の途切れた所で恐る恐る聞いた。「あのう、すみません、さっきから谷って言ってるの、あの谷さんですか?」「え? ああ、あの谷だよ」っツーことは! 目の前におられる方は!!!! 恐る恐るに輪をかけて聞いた。「あのう、クレイジーキャッツの方ですか?」「うん、そうだよ」とニコニコとおっしゃられた。
 水戸黄門が印籠を出したときの悪代官の気持ち。様々な悪事がよぎる。なめた態度での話半分に付け加え、「どさまわりとかやってたんすか?」「音楽で飯食ってたんすか?」の暴言。ファック、ミー!! 目の前の人はクレイジーキャッツのコントラバス(でっかいベース)の、犬塚ひろしさんだった。クレイジーキャッツの音楽をまじまじと聞いたことはなかったが、クレイジーキャッツと言えば、僕のDNAには日本の音楽業界のゴッドファーザー的な存在であると認識しているので、“うわっこれで消される”と思った「すんませんでした!!」犬塚さんは「なにが、なにが」とニコニコしてた。
 犬塚さんは本当にフラットな方で、面白いことが大好きってな人だ。もしかするとアホなバンドマンをつかまえて、たのしんでたのかも知れない。農作業衣が似合っていた犬塚さんだが、打ち上げ会場では白の上下スーツで胸からハンケチを出して、一番目立って、かっこよかった。やっぱりゴッドファーザーだ。カッコつけるとこではカッコつけられる男、あの年代の粋な人って、ちょいワルなんとかと違って、怖さとやさしさを両方持っていてセクシーの域だ。背筋が伸びる。
 
 2006年を振り返るとこの話にも出てくるけど、漢字一文字にするとなんだろか………「謝」な年だったように思う。感謝の“謝”でありながら、“あやまる”と読むことのほうが多かったように思う2006だ。2007、来年は飛ぶように走るカウンタックだ。
 ノロ、風邪には手洗い、うがい。今年も下北あたりで年を飛び越えるか。
 よいお年を!
 来年もよろしくね。

 建物を壊してるマシ―ン

夕焼けと飛行機雲と歩道橋とマシ―ン

僕の愛車。カウンタックではないがランボルギ―ニ